Lesson1 頭痛をよく知る

頭痛は「病気」

 一般的に頭痛は症状(身体的違和感)としてとらえられる事が多いのですが,立派な病気(頭痛症)です。 頭痛で苦しんでいる方は大勢います。

 頭痛が続いて一番心配されるのが,頭の中に何か悪いことが起こっているのではないかということだと思います。しかし大抵の場合,脳内には悪い病気はありません。

 一方,CTやMRIで何も悪いところがないと分かると,慢性頭痛の知識を持たない医師は,治療意欲をなくして鎮痛薬などを出して帰してしまうことになります。多くの慢性頭痛の方たちが病院へ行こうとしないのは,こうしたやり方しかなかった医師の側にも責任があります。

 慢性頭痛は日本人のおおよそ4割の方々が患っている病気です。日本の社会ではまだ,頭痛が病気という認識は少なく,ひどい片頭痛で会社を休んでも「たかが頭痛くらいで」と白い眼で見られた経験をお持ちの方が少なくありません。

 しかし頭痛知識が豊富な間中信也先生のHP「頭痛大学」(http://zutsuu-daigaku.my.coocan.jp)によれば,日本の頭痛に関連する経済損失は年間6000億円程度(2005年度)とされています。欧米でも頭痛の医療や社会経済に及ぼす損失の統計が整備されており,相当な損失額が報告されています。これを見るとやはり頭痛は立派な病気と見なすべきでしょう。


頭痛の種類と分類

 2023年現在では,頭痛は国際頭痛学会の頭痛分類第3版により分類されています。ここでは筆者の私見も加えて簡単に説明しますが,それぞれの詳しい説明は日本頭痛学会ホームページ(https://www.jhsnet.net)をご覧ください。

一次性頭痛

 MRI・CTなどの検査で,原因となる明らかな頭蓋内の異常が見られない頭痛。慢性頭痛のほとんどはこのタイプです。片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛その他が一次性頭痛の範疇に入ります。

 

二次性頭痛

 MRIやCT検査で原因となる頭蓋内の異常が明らかな頭痛で,ほとんどは慢性というより急性に起こる頭痛です。
 
 クモ膜下出血や脳腫瘍による頭痛などが原因で起きるもので,脳神経外科や脳神経内科での治療が必要ですが,頭痛全体の1%弱の割合です。多くは血管性頭痛と緊張型頭痛の混合型の様な頭痛で,急性発症の神経痛や雷鳴頭痛と言われる強い頭痛であることもあります。
 脳腫瘍や頭蓋内出血のように頭蓋内圧が高くなれば例外なく吐き気を伴い嘔吐します。
 
 慢性化していても夜間痛があったり,動作や咳などで頭に響く様な頭痛であれば,炎症その他の原因がある可能性が高いといえます。この二次性頭痛の発痛原因も神経免疫応答の面からかなり明らかになってきています。

 

片頭痛

 反復性の片頭痛は1ヶ月数回~数ヶ月に1回程度の頻度で,周期的にこめかみや額,眼窩周辺を中心におこる拍動性(ずきんずきん,ガンガン)の強い頭痛が特徴です。
 30才前後の女性が最も多く,慢性頭痛全体の約4分の1を占めると言われています。
 もっと頻度の多い方も多く,月15回以上起きる場合は慢性片頭痛とされます。多くは吐き気を伴い吐いてしまうこともあります。
 
 片頭痛の核心は,過敏(正常な現象を異常に強く感じる,具体的には拍動痛,動作で頭に響く,光音臭過敏)にあるとされ,一旦頭痛が始まると光や音やにおいがものすごく煩わしく,頭を動かすたびにガンガン響くので,静かなところでじっと寝ているしかない状態になります。
 大体は一晩寝ると楽になりますが,中には2~3日具合の悪さが続く方もいます。また2割弱の方は前兆といって,頭痛がおこる20〜30分前から,目が見えづらくなると共に眼の前に光るギザギザが現れ段々と広がったり(閃輝暗点),霧がかかったようになったりする見え方の異常を感じる場合もあります。
 
 片頭痛は遺伝性がありますので,多くの方はご両親や,身内の方に片頭痛の方がいるようです。

 

緊張型頭痛

 もっとも一般的な頭痛ですが,症状が漠然としていて頭痛専門医でも診断に苦慮するようです。
 
 大体は肩こりや首の凝りがあり,両側の側頭部が締め付けられるような頭重感が続くとされますが,発作的な痛みもあります。吐き気はほとんどありません。
 原因不明の場合が多いのですが,私見ながら緊張型頭痛の原因は上位頸髄付近の急性炎症で始まった刺激が,精神的ストレスやそれに伴う睡眠障害などで慢性化して,脳内に慢性炎症を起こすためと考えています。この炎症仮説は「頭痛外来からのメッセージ」で詳しく解説する予定です。
 
 更に緊張型頭痛は一次性,二次性を問わず,すべての慢性化した頭痛の背景にある病態とも考えられます。

 

群発頭痛

 30才前後から始まる事が多いとされますが,もっと若い時から起きる場合もあります。男性に多いのですが女性にも起き,慢性頭痛の1%程度とされます。
 
 季節の変わり目に年1~2回,1~2ヶ月の間,ほぼ毎日きまって片方の眼の奥がえぐられるような,絞り切られるような,と表現される激痛が1〜2時間起こります。アルコールを飲んだり激しい運動,熱い風呂などで誘発されます。
 大体は寝入って1~2時間してひどい痛みで眼がさめるということが多く,片頭痛とは違いじっとしていられず,頭を壁にガンガン打ち付けて我慢する方もいる位です。
 頭痛と同時に痛む側の眼が充血し涙が出たり,眼瞼下垂や鼻がつまって鼻水が出たりという自律神経症状もあります。
 多くは1〜2ヶ月で自然に治りますが,1%程度の方は年間を通してほぼ毎日群発発作が起き,それが何年も続く慢性群発頭痛といわれる状態になります。
 
 群発頭痛の原因も不明ですが,季節の変わり目に発症することも多く,群発期は大体同じ時間帯に発作が起きるなど,体内リズムの日内変動と関係しているようで,体内時計の中枢である視床下部が季節変化で体内の自律神経系の調節をする信号が一時的に強く出るためとも考えられます。


慢性連日性頭痛

慢性連日性頭痛(以下CDHと略)は,国際頭痛分類には含まれてはいませんが,頭痛外来にはこのタイプの患者さんが多く受診されます。
 
 提唱者のシルバースタインらによれば,一次性CDHで最も多いのが慢性緊張型頭痛と慢性片頭痛であるとされ,新規発症持続性連日性頭痛(NDPH),持続性片側頭痛(HC)を含めた4病型を,頭痛持続4時間以上の一次性CDHに分類することを提案しており,当院でもこれに倣って診断しています。
 
 NDPHはいつから頭痛が始まったがはっきりしており,始めから慢性頭痛で3ヶ月以上経過した場合,HCは片側の慢性頭痛が続き,流淚,鼻閉など自律神経症状を伴うものです。
 CDHには薬物使用過多の方が多く,うつ状態,不安症,睡眠障害なども多く合併するので生活の質がかなり低下し,治療にもさまざまな配慮が必要になります。


頭部神経痛

 頭痛というより,顔面や後頭部,耳介部,目の奥などに,短時間に刺す様な痛みが起きる場合は神経痛と考えられます。
 
 神経痛は神経周囲にウイルスや何らかの原因で炎症が起きたり,神経周囲の構造物(骨,靭帯,椎間板,血管,筋組織など)からの刺激で,一時的に神経周膜組織が炎症を起こすことが原因と考えられます。
 
 後頭神経痛や三叉神経痛,帯状疱疹痛などは急性痛で,炎症治療を行えば良くなることが多いのですが,神経痛に似た,神経障害性疼痛(痛みの総合的研究参照)の場合はそれぞれの病態に応じた特殊治療が必要になります。すなわち二次性三叉神経痛(神経血管圧迫症候群)や帯状疱疹後神経痛(帯状疱疹による神経障害),絞扼性後頭神経痛などは,ペインクリニック治療や外科治療が必要なことが多いと言えます。
 
 また持続性特発性顔面痛(非定型顔面痛)は,三叉神経障害性疼痛であることもありますが,むしろ中枢性慢性痛の要素が強く,睡眠障害治療や精神療法が必要になることも多いと言えます。

 

頭痛が起きる理由

 頭痛がなぜ起こるかについては,まだはっきりとした原因は解明されていません。
 
 「片頭痛」に関してはかなり研究が進み,前述の間中先生によれば「素因(多因子遺伝)を有する個体において,体内外の刺激がトリガーとなり,脳の感覚情報処理システムが異常をきたし,発作性に神経系と血管系が障害される疾患」とされています。
 中枢・末梢での生体内の神経伝達物質などがどのように関与しているか,その詳細が解明されてきたため,最近では新しい治療薬・予防薬が多数,製薬会社によって市場に出されている状況です。
 日本ではまだトリプタン製剤7種類(点鼻,自己注射含む),ディタン製剤1種類,抗CGRP製剤3種類,予防内服薬4種類(保険適用のもの)に留まっていますが,アメリカではすでに25種類の新しい片頭痛治療薬が認可されており,恐らく日本にもそのうち導入されると思います。
 
 「群発頭痛」に関しても,発痛原因はまだ不明な点が多いと言えますが,自己注射治療に加え,近年在宅酸素治療が保険適用されたり,海外では頭蓋外神経刺激療法など新たな治療法が脚光を浴びています。
 
 「緊張型頭痛」に関しては最も頻度が高いにも関わらず,発痛原因の研究が最も遅れており,まだ肩こりや精神的ストレスが原因と考えている医師が多いようです。しかしこの分野でも近年,慢性炎症と神経免疫応答を軸に研究が進みつつあります。

 

 
Lesson2 頭痛治療と自分でできる対処法

 

 
 
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