2008年4月24日

1.神経痛(特発性三叉神経痛)
顔(眼・鼻・歯を含む)の痛い病気の代表は何と言っても顔の神経痛である,三叉神経痛でしょう。これは何かの動作や熱さ冷たさなどの物理的刺激により,顔面の一部(特に多いのがほおの周りや奥歯の周囲,顎全体などです)に鋭く刺すような強い痛みが繰り返し起こり,ひどくなると物もかめなくなり,歯も磨けず,男性だと痛いのでひげも剃れない,という状態になります。痛みは非常に強く,起こり出すと数秒から数分続き,その間じっと寝ているしかないという人が大半です。幸い治療法は確立されてきており,きちんと三叉神経痛と診断がつけば,適切な治療でほぼ100%治ります。 

2.三叉神経が傷ついた痛み(三叉神経障害性疼痛,ニューロパシー)
三叉神経というのは,顔や口の中全体からの感覚を脳に伝える感覚神経のことです。顔面に分布する前に3本の枝に分かれ三叉路を作るので三叉神経といいます。三叉路の部分を三叉神経節といい,ここに顔全体の感覚が集まってきます。眉毛の中央よりやや内側下方から第1番目の枝(眼神経,眼窩上神経とも)が顔に出ており,頬の中央やや上方から第2番目の枝(上顎神経,眼窩下神経とも),顎の中央から2cmほど外側から第3番目の枝(下顎神経,オトガイ神経とも)がそれぞれ出て顔に分布します。神経が傷つくと,傷ついた部分から異常な刺激が常に出るため,神経痛とは違った痛みが起こってきます。多いのは持続性のじりじりとした灼熱感で,冷たい風があたっただけでジーンと強い痛み(アロディニアまたは異痛覚痛といいます)が起こり,神経痛とは違った意味で触ることができません。しかし温度感覚や触る感じは実際には鈍くなっています。膨らんだ感じを訴える方もいます。多くはケガや手術,炎症のあとに起こってきます。MRIなどを行っても異常が出ないことが多く,原因不明とされやすい顔面痛です。

3.血管性顔面痛(群発頭痛,三叉神経自律神経性頭痛,その他)
血管性顔面痛は頭痛に分類されていますが,始まる部位が顔面(特に眼の奥や鼻,歯など)であり,このような頭痛があることを知らないと,違う病気と間違われます。血管性顔面痛の代表である群発頭痛(詳しくは頭痛A to Zを見て下さい)は眼の奥の太い血管が炎症を起こし,周囲の三叉神経や自律神経を刺激して起こります。また歯肉のあたりから始まる片頭痛も知られています。いずれも体内時計と関係があり,起きやすい時間が決まっていることが多いようです。

4.顎関節周囲の筋肉・筋膜からくる痛み(筋筋膜痛症候群)
筋筋膜痛は,硬くなった筋肉や筋膜(筋肉を包む膜)から響いてくるような痛みで,筋肉に硬い塊(筋硬結)を認め,そこを圧迫すると離れた場所に痛みを感じます(関連痛といいます)。顔面痛としての筋筋膜痛は,通常,側頭部やこめかみに限局する痛みで,顎関節周囲や首の筋肉に硬結があります。顎関節の隙間が狭くなっていたり,大きく口を開けられないなどの症状を伴います。顎関節周囲の筋筋膜痛が原因で,頑固な慢性顔面痛を来すことはよくあるのですが,医師があまり注意を向けない病気であることも事実です。

5.自律神経による顔面痛
自律神経は,活動に必要な交感神経と,休息に必要な副交感神経とがあります。交感神経が緊張するのは不安や恐怖,感情的に昂ぶったときなどです。夜急に物音がして,泥棒だろうか,と思ったときに起きる,動悸,過呼吸,息苦しさ,発汗,手足のふるえなどは交感神経が緊張する結果起きます。逆に副交感神経が緊張すると,リラックスし眠くなり,消化器の働きが良くなり,エネルギーを回復させます。顔面痛の原因として自律神経が働く場合は,主に交感神経緊張で,血管が収縮するため筋肉や周囲の組織の血流が悪くなり,痛みを起こす物質(乳酸など)が貯まって痛みを起こします。血管性や筋肉・筋膜からくる痛みと重なってくることが多いのですが,三叉神経が傷つき,電線がショートするように周囲の自律神経と異常なつながりをもって,交感神経緊張が顔面の痛みを引き起こしていることもあります。

6.原因不明の痛み(持続性特発性顔面痛,以前は非定型顔面痛といいました)
上記のような原因がはっきりせず,持続的に顔の半分,あるいは両側が痛いという方もいます。この場合,より詳しい検査で神経の異常が見つかることもありますが,全く神経の異常が見つからず,症状が痛みの訴えのみであると心因性とされることがあります。ただし,このような状態であっても,更に特殊な診察で原因が分かることがあり,病状に即した治療法はあります。

7.顔面けいれん
特に片側の眼の周りや頬,口の周りがピクピクとケイレンしたり,眼がギューッと閉じて開かなくなったりする病気です。三叉神経痛と同じく,顔の筋肉を動かす顔面神経が,動脈などにより圧迫されて起こる神経血管圧迫症候群の一種で,比較的多いといえます。顔面痛の原因になることはありませんが,違和感や辛く苦しい感じは非常に強いようです。三叉神経痛同様,神経血管圧迫が画像などで確認されれば,手術で完治します。ただ,手術による合併症もわずかながら報告されており,高齢の方や,手術の危険性が高い方,手術が恐ろしくて受けられないという方は,ボトックスという,筋肉を弛緩させる注射で症状は一時的に改善します。また人によっては筋肉を弛緩させる内服薬で良くなる場合もあります。
顔面けいれんと間違われやすいのは,顔面チックで,これは習慣性のものです。眼の周りが気になるとどうしてもそこに注意が集中するため,嫌な感覚を紛らわすのに,無意識に眼をつぶってしまう病気で,認知行動療法などが有効です。また,不随意運動の一種である眼瞼けいれんという病気も似ていますが,眼瞼けいれんは通常両側に見られ,強い持続的なギューッという眼周囲の筋肉の収縮による閉眼が起こり,自分の意思ではなかなか開眼できない状態になります。これは高齢の方に多く,脳内の神経伝達物質が減ってきて起こるようです。また顔面神経麻痺の後に,筋肉の持続的けいれんが起こり,顔面けいれんと似たような状態となることもあります。
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