日本心身医学会北海道支部講習会(北大臨牀講堂)で講演したものです。


疼痛性障害としての慢性頭痛

1.はじめに
頭痛の診断基準としては1988年に出された国際頭痛学会(International Headache Society,IHS)の基準があり,現在ではそれに準拠して頭痛の診断がなされている。しかし見方を変えると,慢性頭痛と疼痛性障害はオーバーラップする部分がかなり存在する。今回は身体表現性障害としての頭痛という見方から,心身医学的な頭痛診断・治療のポイントを述べる。

2.頭痛の分類と鑑別診断
頭痛は主に機能性頭痛と症候性頭痛に分けられる。脳神経外科で扱う頭痛は主に症候性頭痛と考えられがちであるが,脳神経外科外来を頭痛を主訴に受診する人の大半は,機能性頭痛であり,特に緊張型頭痛が7~8割と圧倒的に多い1)。緊張型頭痛の診断としてはIHS基準(表1)に沿った問診,神経学的検査,理学所見,画像診断,電気生理検査などであるが,演者は理学所見が最も重要と考える。また緊張型頭痛と鑑別を要するものとして,頚性頭痛(頚椎椎間関節症候群を含む),後頭神経痛(絞扼性,神経損傷性),頚筋筋膜痛などがある。しかしこれらはIHS基準でははっきりとした鑑別診断ができないことがある。演者は慢性後頭部痛を主訴とする患者を病態別に表2のように分類している。この分類は治療と結びついた分類であり,他科からみた病態分類としては分かりやすいのではないかと思われる。
片頭痛(表3)や群発頭痛(表4)の診断基準もIHS基準に準拠するが,中には片頭痛と緊張型頭痛の混合型としか言いようがない例や,慢性片頭痛,慢性群発頭痛などで薬物依存となり,慢性連日性頭痛の形をとって診断に苦慮する例もある。片頭痛は典型的な場合は経過と症状から診断可能であるが,クモ膜下出血や髄膜炎などと鑑別が難しい場合もある。また急性副鼻腔炎は一見片頭痛様の発作を伴うこともある。すなわち眼窩周囲の拍動痛を訴えてくる場合が少なくない。したがってIHS基準を適用する場合,症候性頭痛(group 5-11)の鑑別が最優先されるべきである。前駆症状(前兆)も片頭痛特有なものであるが,中には一過性脳虚血発作である場合もある。特に前兆のみの場合は注意を要する。群発頭痛は三叉神経痛,Tolosa-Hunt症候群,急性狭隅角緑内障,海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻,急性副鼻腔炎などとの鑑別が必要である2)
心身医学的にみると,緊張型頭痛は若いうちは過剰適応的な人が多く,年とともに神経症的,抑うつ的な人が増える1)。また脳神経外科外来を訪れる片頭痛患者は心理的には過剰適応の割合が神経症傾向より多かった3)。群発頭痛はMMPIなどで精神病尺度が高値を示す割合が高く,これは最近のいくつかの報告と一致する4)。脳外科・ペインクリニック的頭痛診断は画像診断,各種鎮痛剤,神経ブロック,外科治療と診断的治療のことが多い。神経の侵害受容器刺激や神経損傷を念頭におき治療するからである。すなわち解剖学的,神経生理学的診断といえる。これに対し心身医学的頭痛の診断根拠の最たるものは,面接の印象,各種心理テスト,背景要因,抗不安薬,抗うつ薬,心身医学的治療への反応ということになる。すなわち患者の頭痛という訴えを,一人の人間としての現在までの社会経験的反応として捉え,身体全体の不調として捉えることになる。治療は訴えの内容に共感し,患者の苦しさを自分のものとして取り込むことから始める。したがってアレキシシミア的な人にはこちらからいろいろな痛みに伴う感情表現をもちいて問診する必要があるし,神経症的な人には多愁訴を合理的にまとめて問題点を気づかせる必要がある。抑うつ傾向を考慮した質問内容も必要である。ほかに現在その人が置かれている社会的環境や社会保障制度の有無なども,頭痛の診断基準を補う情報として必要である。

3.症例報告

症例1 65才男性
急に頭が締め付けられ眩暈がするという主訴にて来院。血圧は176-96。神経学的陽性所見は四肢腱反射軽度亢進のみ。病的反射なし。理学的に後頚部の筋緊張が著明で圧痛はあるが,関連痛はない。CTでクモ膜下出血なし。心理検査ではCMIⅡ領域,SDS48点,TEGはN型FC低位タイプであった。先月会社を定年退職したばかりで,新しい仕事を懸命に探している最中であった。本人は肩こりに対する自覚はない。緊張型頭痛の診断にはなるが,この場合はepisodicでもchronicでもないため,2.3その他の緊張型頭痛と診断される。抗不安薬,筋弛緩剤,肩こり体操の指導,リラクセーション法の導入で改善。家族から少しのんびりして欲しいといわれたのが,却って罪悪感を引き起こし無理をしたのが直接のきっかけだったようだ。この場合の緊張型頭痛は心身症型である。

症例2 48才女性 
 左眼の奥からこめかみ,頭頂後頭部にどちらかというと持続的な激しい痛みを主訴に来院。軽度の嘔気があるが嘔吐はない。神経学的には陽性所見なし。理学所見で後頭神経出口付近に圧痛が著明で押すと眼の奥にひびく。頭痛の性状はガンガンというものであったが,拍動性は感じない。しかし体動で頭に響く。風呂に入るとすこし楽になる。片頭痛の家族歴はない。CTでは器質的疾患はない。MRIでも副鼻腔炎を含め異常所見はない。下位頚椎に軽度脊椎症性変化を認める。以上より後頭神経三叉神経症候群(GOTS)を疑い,本人の同意を得て後頭神経ブロックを行った。しかし全く無効であり,ジクロフェナク坐薬がやや有効,これまでOTCの痛み止めをずっと内服してきたという。心理背景はCMIⅡ領域,TEGはCPとACが低くAもやや低いM型であった。MMPIは?尺度が異常に高く検査の妥当性はなかった。恐らく本人の心的防衛姿勢が強いためと思われた。IHS基準にはない混合型頭痛の診断で,抗不安薬と塩酸ロメリジン,およびSSRI(選択的セロトニン再吸収阻害剤)を投与し,後頚部はホットパック,マッサージ,目の周りはアイスパックで冷やし,頭痛時ジクロフェナク坐薬を出して様子をみた。また頭痛日記を書かせ外来森田療法的に接していたが,結局夫の自営業の事務を一手にこなしており,決算期前後になると必ず発作が起こっていることがわかり,自分でも無理していたことに多少気付いたことで症状も軽快しつつある。

症例3 34才女性5)
 突然の頭痛と嘔吐で発症し,クモ膜下出血を疑われて当院へ搬送された。精査の結果クモ膜下出血その他の器質的異常はなく,脳波も正常だった。片頭痛と考え外来通院でエルゴタミン製剤や抗不安薬などで様子をみたが,頭痛の性状がジクジクと絞られるような,あるいは突き刺すようなと表現されるもので,ほとんど1日中見られ,右側のみに限局して眼の異物感,充血,流涙も伴うことから,慢性群発頭痛と診断した(表4)。頭痛の強さはVASでほとんど8~10と記載されている。酒石酸エルゴタミン・無水カフェイン合剤は無効で,カルバマゼピンはやや有効だったが副作用のふらつきが強く中止した。抗うつ剤も各種試したが無効で,唯一炭酸リチウムのみ有効であった。しかしリチウムの量を増やすと手指に振戦が出現し,中断せざるを得なかった。ステロイドは薬疹のため効果判定のまえに投薬を中止した。酸素吸入も無効,C2神経節ブロックも無効,星状神経節ブロック(SGB)は有効だったが,効果は1日もたなかった。外来で頻繁にSGBを行いながら,翼口蓋神経節(PPG)ブロックを行ったところ,数日間の寛解が得られた。しかし再発したため,PPGの高周波熱凝固法(RFTC)を行った。当初2ヶ月間ほど頭痛の寛解が得られ,SGBも不要となり,しばらくは落ち着いていたが,2ヶ月後に徐々に再発。SGBを再開するとともに,再度RFTCを行ったところ,三叉神経第Ⅱ枝領域のしびれと異常知覚が出現し,頭痛に対する効果は1回目ほど著明ではなかった。その後もガンマナイフ治療などを受けたが著効はせず,経過の途中より原因不明の中枢性と思われる発熱が出現しており,自律神経調節障害の合併が疑われた。また心理的にはMMPIで重篤な精神障害を示す傾向がでており,心理療法として外来森田療法的な日記療法を行っていた。しかし後半では離人症様の訴えが出現したため,精神科と協同で治療を行っており,幸いある時を境に眼窩深部痛は急速に改善した。このケースは当初IHSの慢性群発頭痛の基準を満たす症状であったが,途中からは精神症状が主体となり,診断の難しさを知らされた症例であった。

4.考察ならびに結語
 以上,症例も交えて身体表現性障害としての頭痛を捉え,心身医学的診断治療について解説してきた。慢性頭痛で定期的に外来通院をし出すケースは必ずといっていいほど心身両面に原因を抱えている。慢性頭痛は身体的疾患と考えられやすいが,その意味では心身医学的治療を考えた分類が必要な場合も出てくる。慢性後頭部痛に関しては一つのモデルを示したが,片頭痛も前兆のあるものとないものでは全く違った分類が必要になるかも知れない。また眼窩部痛も種々の病態でおこり,適切な分類が必要になる可能性がある。今後の検討課題としたい。

参考文献
1)北見公一,奥瀬 哲: 脳神経外科領域における筋収縮性頭痛患者の心理背景 心身医療3:400-405,1991
2)Schoenen J, Sandor PS: Headache. In Textbook of Pain 4th ed. By Wall PD and Melzack R. Churchill Livingstone 1999; pp761-798
3)北見公一,奥瀬 哲:脳神経外科を訪れる片頭痛患者の心理背景について 頭痛研究会会誌 19;28-29,1992
4)Jorge RE, Leston JE, Arndt S et.al: Cluster headaches : association with anxiety disorders and memory deficits. Neurology 11;53:543-547,1999
5)北見公一:種々の治療に抵抗を示す慢性群発頭痛の1症例 日本頭痛学会誌27;44-45,2000

表1.緊張型頭痛のIHS分類(要約)

2.1 反復発作性緊張型頭痛
30分から1週間続く反復性の頭痛。少なくとも発作は10回以上あった。年180日未満(月15日未満)。圧迫感,絞扼感(拍動性ではない)。軽度から中等度の強さ。両側性で日常動作で悪化しない。嘔気はないが光・音過敏はあってもよい。
2.1.1 頭蓋周囲の筋障害を伴う反復発作性緊張型頭痛
2.1.2 頭蓋周囲の筋障害を伴わない反復発作性緊張型頭痛
2.2 慢性緊張型頭痛
月15日以上の頭痛が最低6ヶ月間続く。圧迫感,絞扼感(拍動性ではない)。軽度から中等度の強さ。両側性で日常動作で悪化しない。嘔吐はない。嘔気か光・音過敏のいずれかはあってもよい。
2.2.1 頭蓋周囲の筋障害を伴う慢性緊張型頭痛
2.2.2 頭蓋周囲の筋障害を伴わない慢性緊張型頭痛
2.3 上記のいずれでもない緊張型頭痛
いずれの診断基準を1項目ないしそれ以上満たさない緊張型の頭痛。
前兆のない片頭痛の診断基準を満たさない。



表2.著者の用いている慢性後頭部痛の分類

慢性後頭部痛
Ⅰ.緊張型頭痛
1) 心身症型(圧痛点がないかあっても軽度で関連痛を起こさないもの,過剰適応,うつなどの合併が多い)
2) 筋筋膜痛型(著明な圧痛点と関連痛が見られ,トリガーポイント注射が有効)
3) 頚性頭痛型(椎間関節部圧痛,頚椎の不安定性や頚椎症,椎間関節ブロック有効)
Ⅱ.後頭神経痛
1) 絞扼性後頭神経痛(第2,3頚神経領域の圧痛,放散痛,感覚異常,頚部運動で放散痛,後頚筋の筋萎縮がある場合もある,後頭神経ブロック有効,絞扼の原因は血管や靱帯など)
2) 症候性後頭神経痛(第2,3頚神経領域の圧痛,放散痛,感覚異常,頚部運動で放散痛,後頚筋の筋萎縮がある場合もある,後頭神経ブロック有効,骨病変・腫瘍・慢性炎症,まれに椎骨動脈の圧迫や解離が原因)
Ⅲ.神経損傷性後頭部痛
  頚神経根損傷,放射線治療後,癒着性クモ膜炎,帯状疱疹後神経痛などで頚神経節~脊髄後角に病変があるもの(後角より中枢側は中枢性疼痛)



表3.片頭痛のIHS分類(要約)

1.1  前兆を伴わない片頭痛 migraine without aura
A.次のB-Dを満足する発作が5回以上ある
B.頭痛発作が4~72時間持続する
C.次のうち少なくとも2項目を満たす;片側性頭痛,拍動性,中等~強度の痛み(日常生活が妨げられる),階段昇降など日常的動作により頭痛が増悪する
D.発作中次のうちの1項目を満たす;悪心あるいは嘔吐,光過敏あるいは音過敏

1.2  前兆を伴う片頭痛 migraine with aura
A.次のBを満たす発作が2回以上ある
B.次の4項目のうち3項目を満たす
1.脳皮質・脳幹の局所神経症状を疑わせる一過性の前兆がある  
2.前兆は4分以上続き,2種類以上の前兆が連続してもよい  
3.前兆は60分以上は持続しないが,2種類以上の場合は持続時間が延長する
4.頭痛は前兆後60分以内に生ずる(前兆前や同時でもよい) 

1.2.1 典型的前兆のある片頭痛(同名半盲,片側しびれ,片側脱力,失語など)
1.2.2 遷延性前兆のある片頭痛(TIAと鑑別不可能な場合も)
1.2.3 家族性片麻痺性片頭痛(一等親の親族に同じ発作,麻痺が長期化)
1.2.4 脳底性片頭痛(両鼻側または耳側半盲,構音障害,眩暈,耳鳴,聴力障害,複視, 失調,両側性感覚障害,両側性麻痺,意識障害のうち2つ以上の前兆)
1.2.5 頭痛のない前兆
1.2.6 前兆のある片頭痛の急性型(5分以内に完成)

1.3~1.7までは省略


表4.群発頭痛のIHS分類(要約)

3.1 群発頭痛
A.少なくとも5回の発作が以下のB-Dを満たす
B.激しい片側の眼窩,上眼窩及び/又は側頭部痛が未治療ならば15分~180分間続く
C.以下の1項目以上の徴候が頭痛と関連して病側に起こる
1.結膜充血 2.流涙 3.鼻充血 4.鼻漏 5.前額部発汗 6.縮瞳 7.眼瞼下垂 8.眼瞼浮腫
D.頻度は2日に1回~1日8回である
E.その他の頭痛や器質的疾患でないこと

3.1.1周期性の不明な群発頭痛 cluster headache periodicity undetermined
下記に分類するには早すぎるもの
3.1.2 間歇的(周期性)群発頭痛 episodic(periodic) cluster headache
2回以上の群発,7日~1年,14日以上の寛解期
3.1.3 慢性群発頭痛 chronic cluster headache
1年中寛解期なし,または14日以内の寛解期

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