口や顔の痛み:口腔顔面痛についての研究を掲載しました。

 
顔が痛い,歯が痛い(口や顔の痛み:口腔顔面痛)

 

三叉神経
額や眼の周りが痛い場合も頭痛と表現されることがあります。頭痛の中では,すでにお話しした群発頭痛が,眼の奥の強い痛みを訴えます。それ以外の頭痛では顔面下半分が痛む頭痛も報告されていますが,あまり一般的ではありません。顔の痛い病気の代表は何と言っても顔の神経痛である,三叉神経痛でしょう。これは何かの動作や物理的刺激により,顔面の一部(特に多いのがほおの周りや奥歯の周囲,顎全体などです)に鋭く刺すような強い痛みが断続的に続き,ひどくなると物もかめなくなり,歯も磨けず,痛いのでひげも剃れない,という状態になります。痛みは激烈で起こり出すと数秒から数分続き,その間じっと寝ているしかないという人が大半です。幸い治療法はほぼ確立されており,カルバマゼピンという抗けいれん剤の一種がかなり有効です。ただしこの薬は副作用としての眠気やふらつきが多いため,内服できない人も多くいます。その他消炎鎮痛剤の坐薬や内服薬,抗不安薬,抗けいれん剤,抗うつ薬などで効く場合もありますが,薬はある程度,症状を一時的に抑える役目しかありません。三叉神経というのは,顔や口の中全体からの感覚を脳に伝える感覚神経のことです。顔面に分布する前に3本の枝に分かれ三叉路を作るので三叉神経といいます。三叉路の部分を三叉神経節といい,ここに顔全体の感覚が集まってきます。眉毛の中央よりやや内側下方から第1番目の枝(眼神経。眼窩上神経ともいいます)が顔に出ており,頬の中央やや上方から第2番目の枝(上顎神経。眼窩下神経とも言います),顎の中央から2cmほど外側から第3番目の枝(下顎神経。オトガイ神経とも言います)がそれぞれ出て顔に分布します。


 三叉神経痛(TN)の原因は多くの場合,三叉神経節から脳幹に入るまでの三叉神経に,周囲の動静脈がぶつかって刺激するのが原因で,神経血管圧迫症候群(Neurovascular compression syndrome NVCS)と呼ばれます。NVCSには脳外科手術(後頭下開頭による神経血管減圧術 Micro vascular decompression,MVD)がかなり定着はしてきていますが,純粋な脳神経外科的疾患というにはまだ不確実な点が多いといえます。基本的には診断がきちんとしていると,大抵の場合手術で治ります。国際疼痛学会のTNの定義を表1に示しました。その他にTNの原因として,脳腫瘍や血管奇形などが知られています。診断としては,まず三叉神経節の神経ブロックを行い,効果があれば手術以外の治療方法(三叉神経節高周波熱凝固法,グリセリン注入法,ガンマナイフ治療,微小バルーン圧迫法など)をまず試みるべきだろうと思います。

  

手術部位と手術中の所見
診断で問題となるのが非定型顔面痛との鑑別です。非定型顔面痛というのは三叉神経痛や群発頭痛という風に診断がつかない顔の痛みの総称です。大きく分けて三叉神経が傷ついた痛み(ニューロパチー),片頭痛や群発頭痛とは診断できないが何らかの血管拡張が関係する顔面痛(イミグラン注が有効),咬筋・側頭筋など顔の回りの筋肉が慢性のこりを起こしそこから顔に響いてくる筋筋膜痛(関連痛),自律神経の一種である交感神経が関係する口腔顔面痛,いわゆる心因がもとで起こる顔面痛の5種類に分けられます。

ニューロパチーは表面の感覚は鈍いのですが,焼けるような痛みがあり(灼熱痛),触ったり口を動かしたりすると痛みが起こる(アロディニア),風があたっても痛い(痛覚過敏)などの特徴をもっており,痛みの性状は持続性の焼けるような耐えがたい痛みです。原因は外傷,手術後,炎症後などですが,ブロック後の無痛覚部痛もニューロパチーです。ニューロパチーを手術対象とする場合は,神経根より中枢側,つまり脳幹から大脳体性感覚野までの感覚の通路を電気刺激したり外科的に遮断したりする方法がとられます(顔面の感覚経路)。血管性の場合はイミグランが有効ですが,中には自律神経をブロックすると有効な場合もあります。交感神経が関与する場合は各種交感神経ブロックが有効です。心因の関与する場合は簡易精神療法,抗不安薬,抗うつ薬などで治療します。

表1.特発性三叉神経痛の診断基準(国際頭痛学会1988)
A. 数秒から2分以内持続する顔面,ないし前額部の発作性疼痛
B. 痛みは以下のうち少なくとも4項目を満たす
① 三叉神経の1つまたはそれ以上の三叉神経分枝領域に一致した痛みである
② 痛みの性質は突発性,鋭い表在性,穿刺性,灼熱性である.
③ 痛みは激烈である
④ 痛みはトリガーゾーンより広がり,食事,会話,洗顔,歯磨きなどで起こる
⑤ 発作の間歇期は全く無症状である
C. 他の神経学的症状を有さない
D. 発作は各個人によっていつも同じである
E. 顔面痛の他の原因が病歴,症状,諸検査などで除外されていること

 

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