学会イベント 第12回北海道頭痛勉強会後記 更新 : 2007年7月29日
去る平成19年7月20日に,札幌グランドホテルにて,約100名の医師ならびに医療関係者の皆様のご参加をいただき,第12回の北海道頭痛勉強会が開催されました。
定刻18:00を5分程過ぎて,はじめに今回の共催メーカーであるファイザー㈱より,片頭痛治療薬レルパックスの製品紹介と,片頭痛の簡易診断のためのスクリーナーの説明がありました。ご希望の施設には,担当MRを介してすぐにお届けしますとのことでした。

18:20頃開会のアナウンスがあり,一般演題の座長である北海道大学神経内科准教授の矢部一郎先生が登壇され,一般演題が2題発表されました。

一般演題1「群発頭痛と慢性連日性頭痛に対するガバペンの予防効果について」
演者:北見クリニック院長 北見公一
まず私が上記演題名で発表したわけですが,これは昨年10月に部分てんかん発作の治療薬として市販されたガバペン(Gabapentin)を,海外の文献で効果が認められている慢性頭痛の予防に使用した経験をまとめたものです。群発頭痛23例,慢性連日性頭痛(CDH,多くは変容性片頭痛)9例の合計32例に使用し,群発では200mg~600mg,CDHでは400mg~900mgを使用して,驚くような効果が見られました。すなわち群発の発作が短時間で止まった著効例が13例あり,有効まで含めると78.3%という高率な効果でした。またCDHも有効例まで含め77.8%に何らかの効果が得られました。問題点は眠気やふらつきなどの副作用で継続できない症例が数例みられたことと,日本では他の抗けいれん薬と併用でなければ認められないため,少量のバルプロ酸やクロナゼパムなどと併用したことで,併用薬の効果を否定しきれないことでした。しかしかなりの効率で,今までの治療薬にない予防効果が得られ,今後慢性頭痛治療にも検討すべき薬剤と思われました。

一般演題2「カフェインが著効した睡眠時頭痛の一例」
帯広厚生病院神経内科主任部長 保前英希先生
次に保前先生が,非常に珍しい睡眠時頭痛の症例の長期にわたる治療結果を報告され,ユニークなエピソードにより,カフェインが有効であるという結論に到達された経緯を整然と報告されました。症例は56歳女性で,30歳頃から夜中の2:00頃に決まって頭の左半分が2-3時間痛くなり,はじめ週1-2回だったものが,50歳過ぎからは毎日起こるようになったとのことです。頭痛の性状は非拍動性で,自律神経症状を伴わず,検査では異常が見られなかったようです。当初発作性片側頭痛や慢性片頭痛として治療をされており,試行錯誤の結果,カフェルゴットを寝る前に飲むことで頭痛の頻度が月1回まで減りました。遠方の人であり,地元で治療を続けておられましたが,たまたま地元にカフェルゴットがなく,ジヒデルゴットに処方を変更された途端に,また連日の夜間頭痛が発生したとのことでした。2004年に国際頭痛分類が改定され,その時点で睡眠時頭痛の診断基準が掲載されて,初めてこの症例が睡眠時頭痛であり,カフェルゴットに含まれているカフェイン100mgが著効していたのではと思い当たったそうです。更にこの仮説を確かめるのに,無水カフェイン100mgのみを寝る前に飲んでもらったところ,カフェルゴットと同等の効果が得られたとのことでした。睡眠時頭痛は1988年にRaskinが6症例のまとめを報告し,2003年にEversらが71例の発表例のレビューを報告していますが,頻度は全慢性頭痛中0.1%程度ときわめて稀で,原因は不明ですが,REM睡眠との関連が多いことなどより,視床下部・間脳・脳幹の機能異常が推測されています。演者は更に緑茶飲料でもカフェインを多く含む飲料が有効であることを患者自身が見出していたエピソードも語られ,非常に稀なケースの特異な全体的経過を更に実感させる内容になっていました。そして中高齢者に多いことなどより,今後も報告が増えるのではないかと予測されておりました。

19:00頃より,北海道大学神経内科教授 佐々木秀直先生の座長のもと,本日の特別講演が始められました。

特別講演「片頭痛と脳血管障害」
慶応義塾大学神経内科教授 鈴木 則宏先生

鈴木教授には小学校から中学校までを札幌で過ごされたというご縁で,ご多忙中にもかかわらず快く特別講演をお引き受け頂きました。片頭痛と脳血管障害という広範囲なお話しを非常に分かりやすく問題点を整理され,最後には非常に興味深い症例報告をなさいました。
まず片頭痛と脳血管障害がどのような関係にあるかを分類され,片頭痛の発作中に脳梗塞を発症する片頭痛性脳梗塞(Migrainous infarction)について解説されました。これはICHD-Ⅱでは片頭痛の合併症として1.5.4に記載されており,診断基準によれば前兆のある片頭痛がある患者で,前兆が60分以上続くことを除けば今までの頭痛発作と同様であること,画像検査で責任領域に虚血性梗塞病変が描出されること,とされています。この場合,前兆は局所徴候になる訳です。しかしこの片頭痛性脳梗塞は非常に稀だと話されていました。その他の片頭痛関連脳血管障害として,治療薬およびその他の併用薬の副作用として脳梗塞が起きる薬剤誘発性のものもあり,片頭痛発作からしばらく間をおいて発症した脳梗塞には,関連をどう捉えるか難しい場合もあると話されました。次に最近話題になっている,片頭痛患者は後年脳梗塞を起こしやすいか?,片頭痛は脳梗塞の危険因子か?という問題につき話されました。Kruitらが2004年にJAMAに発表した論文では,脳の後方灌流領域(posterior circulation)では,前兆のある片頭痛(MWA)は有意に脳梗塞発症の頻度が高いとされています。また41件のメタアナリシスの報告でも,片頭痛患者が将来脳梗塞を発症する頻度は,2倍程度とされ,特に頻度の高いケースやMWAでは高まるとのことです。更に経口避妊薬を服用しているMWAの患者では脳梗塞発症のリスクが6~14倍にまで上がることが報告され,経口避妊薬の使用上の注意にもMWAの患者には禁忌と記載されています。これらの報告の問題点は,後ろ向き調査であることや,片頭痛治療の有無,内容などは全く考慮されず,聞取り調査であるため,片頭痛以外の脳梗塞を発症しやすい病態については検査されていない,という点などがあるとのことでした。そこで2006年にKurthらによりNeurologyに45歳以上の片頭痛女性例を9年間前向き調査した報告が出され,それによるとMWAの脳梗塞発症率は1.72倍,55歳以上だと2.44倍とのことでした。この報告も問題点として治療内容が不明なのと,45歳未満のケースはどうなのかということが分かっていない点などがあることを,鈴木先生は指摘されていました。
片頭痛が危険因子となる血管疾患として,脳梗塞以外に,冠動脈系の疾患も多いことを話されていました。今までの報告によれば,女性の冠動脈病変の発症率はMWAで高まることが報告されています。しかし前兆のない片頭痛(MOA)は脳血管疾患も心血管疾患もいずれも関連なしとする報告が多いようです。そうすると,MWAとMOAは片頭痛という括りのなかでも違う病態である可能性もでてきます。今回の話とは別ですが,という前置きで,月経関連片頭痛では前兆がでない,という事実も,片頭痛という分類に括られている病態にも,いくつかの違う原因をもった疾患が含まれていることを示唆しているそうです。
以上から片頭痛と脳血管障害との関連で,若年女性では,前兆の有無,経口避妊薬の併用の有無,後方脳環流領域,血管攣縮との関連がエビデンスとして認められるが,片頭痛性脳梗塞の発症頻度はきわめて低いだろう,というのが鈴木先生のまとめでした。
更にその後,話題として心臓の卵円孔開存(PFO)をもった片頭痛患者では脳梗塞の発症が多いという話をされていました。PFOは左右シャントを有し,全脳梗塞患者の19.7%,心原性脳梗塞患者の34.9%に見られ,PFOを有する片頭痛患者は27~52%との報告があるそうです。またPFOは閉鎖手術後脳梗塞発症のリスクが低下することも報告されているとのことです。PFOの有病率は25-35%程度とされ,片頭痛の有病率10-14%程度と考えると,同時にPFOとMWAの遺伝形質をもったケースがあり,その結果脳梗塞の発症が増えるのではないかとのことでした。
最後に鈴木先生は非常に特異な経過をとり脳虚血症状を来したケースを報告されていました。20歳代の女性で,激しい頭痛と左半身脱力で発症し,当初は片麻痺性片頭痛と診断して血管拡張剤や脳血流改善剤で治療していたケースが,2回目の発作を起こしたとき,左片麻痺も重篤でMRIのDWIで分水嶺虚血を示していました。血管撮影で右頚部頚動脈の著明なスパズムが認められ,バルーン形成術を行ったところ,それまで脳虚血だった右内頚動脈領域が,一気にHyperperfusionになり,消失するのにしばらくかかったそうです。診断基準から,前兆としての片麻痺が60分以上続いたため,片麻痺性片頭痛とは言えず,脳梗塞にもいたらなかったため,片頭痛性脳梗塞ともいえないというケースで,今後このようなケースを注意して調べていく必要があるといわれました。その後,フロアから同じようなケースを持っているという発言もあり,このような稀で特異なケースを今後も注意する必要があるようです。

最後に20:00を少し回ったところで,本頭痛勉強会の顧問である北海道大学名誉教授の田代邦雄先生に会の総括を述べていただき,無事,第12回の北海道頭痛勉強会を終了いたしました。次回は本年11月頃にエーザイ㈱の共催で行う予定でおります。
文責 北見公一
 
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