学会イベント 第15回北海道頭痛勉強会後記 更新 : 2008年12月22日
 前日の突然の大雪の名残が残る札幌パークホテルで,去る11月21日(金)に第15回の北海道頭痛勉強会が開かれました。参加人数は82名(医師61名,コメディカル21名)と報告がありました。

18:00より共催メーカーであるアストラゼネカ社からゾーミッグRMの製品説明がありました。

18:20頃より下記一般演題が2題発表になりました。

一般演題1:脳脊髄液減少症-自験4例の臨床的検討
北海道大学病院神経内科 松島理明先生

これまで特発性低髄液圧症候群(Spontaneous intracranial hypotensionSIH)と呼ばれていた病態は,本来はCSF hypovolemiaが主体であることより脳脊髄液減少症と呼ばれるようになりました。脳脊髄液減少症ガイドライン2007が篠永先生らの監修で発刊されています。それによれば,坐位・立位で3時間以内に頭痛などの症状が悪化するとされます。画像ではRI脳槽シンチで早期膀胱内集積,髄液漏出の所見,RIクリアランス亢進のいずれかを陽性所見ととるとされています。また頭部MRIやMRミエログラフィなども診断に必要です。鑑別診断には種々の疾患が挙げられます。治療はまず点滴などで保存治療を行ない,効果のない場合は硬膜外自家血注入(EBP)を行うとされています。松島先生らの自験4症例のうち3例には起立性頭痛があり,残りの1例には起立性頭痛はなく,動眼神経麻痺などの症状が出ていたとのことです。この症例では胸椎MRミエログラフィで片側性の漏れが確認され,同レベルでEBPを行ない改善したとのことです。他の3例はEBPは行わず保存療法で改善したと報告されました。

一般演題2:片麻痺性片頭痛の1例-遷延性前兆とSPECT所見
中村記念病院神経内科 仁平敦子先生

仁平先生は孤発性の片麻痺性片頭痛の症例を報告されました。診断としては運動麻痺を呈し,前兆は診断基準では24時間未満とされています。症例は14才男子で,頭痛,不隠,発熱で発症しました。右視野欠損,軽度右麻痺が見られ,意識障害があり発語はあまりない状態でした。症状は24時間以上続き,3日目でSPECTを撮り,左側頭頂側頭葉脳血流低下,右小脳血流低下,交代性小脳抑制(Crossed cerebellar diaschisis CCD)を認めました。5日目のMRIで左頭頂葉に浮腫を認めましたがDWIでは異常なし。この症例は9日程度で次第に症状が改善したとのことです。孤発性片麻痺性片頭痛は2004年にThomsen and Olesenがまとめており,視覚前兆,感覚症状,運動症状,失語の順で症状が進行するとのことです。前兆のみのことはないようです。遷延性前兆時には遅発性大脳皮質の浮腫を伴い,血管性浮腫で血管の神経性炎症と思われます。治療としてはトリプタンは禁忌で,フルナリジン,ロメリジン,ベラパミル,ステロイドなどを用います。先生はこの症例以外にも1例の小児例を報告され,遷延性前兆時にSPECTで血流増加がみられ血管性浮腫を裏付ける所見もあったとのことでした。

19:00頃より,当会顧問の北海道大学名誉教授田代邦夫先生が座長をされ,特別講演が開催されました。

特別講演:慢性頭痛の病態生理と治療
埼玉医科大学病院神経内科・脳卒中内科教授 荒木信夫先生

荒木先生はまず片頭痛の病態について話されました。有病率は北里大学の有名な統計やその他の統計を示され,大体8%前後とのことです。頭蓋内外の痛覚感受性部位は,RayとWolffにより1953年に詳しく調べられ,三叉神経,後頭神経が主な神経になります。片頭痛と緊張型頭痛を比べると,片頭痛でも肩の痛みを79%の人が訴えるそうです。前兆としての閃輝暗点で大事な点は中心性視野欠損とのことです。診断基準で見ますと前兆は,陰性症状と陽性症状からなっているようです。
病態生理としては拡延性抑制CSDをLauritzenが1987年に報告し,これはたまたま以前にRaeoが報告していたCSDと同じものでした。今ではBOLD法のfMRIにより研究されており,片頭痛のgeneratorは脳幹に近い部分にあるとされます。片頭痛の発現メカニズムは,今の所ハーバード大のMoskowitz教授のTrigemino-vascular theoryが有力です。Glutamate上昇がきっかけのようです。遺伝子の分野では家族性片麻痺性片頭痛(FHM)でカルシウムチャネルCACNA1A異常,Na-K-ATPase異常,Na channel異常が分かっているとのことです。
ニューロペプチドについては前兆のある片頭痛でCGRP低下によるDenervation hypersensitivityが関係しており,ラットの鼻毛様体神経刺激で血流増加が起きますが,CGRP拮抗薬でその血流上昇が抑制されるとのことです。片頭痛のgeneratorはPETで中脳5mm背側にあると報告されており,ソウル大でendotherial progenitor cellsが関係するという報告がなされたとのことです。そうすると片頭痛は全身血管系の異常と捉えられ,内皮細胞の機能障害が関係するので脳梗塞が起きやすいのではないかと推測されているそうです。
片頭痛の治療薬はトリプタン製剤です。以前使われたエルゴタミン製剤は5HT1Aも刺激し副作用が出ていました。トリプタンは血管壁平滑筋の5HT1B受容体と,血管周囲C線維に多い1D受容体を選択的に活性化して効果を表します。層別化治療が勧められ,服薬のタイミングが大事です。治療エビデンスサマリーも報告されました。予防薬はβブロッカー・Ca拮抗剤があり,作用機序としては拡延性抑制CSDを抑えることで効果を出すとされますので,長く飲ませると効くとのことです。それ以外に抗うつ薬に分類されているアミトリプチリンや,抗けいれん薬のバルプロ酸,トピラメートなどが有効です。予防の対象は片頭痛が月3-4回以上の人,トリプタン,エルゴタミンの効きが悪い人,前兆が長く強い場合,頭痛が一定の期間に頻発する場合,薬物乱用頭痛(MOH)などです。
先生はMOHの基準を示されトリプタン乱用頭痛についても話されました。これは片頭痛と同じ性質で,トリプタンを月10回以上内服し続けて3ヶ月で診断されるとのことです。またトリプタン,エルゴタミン,NSAIDsの順でMOHになりやすく,やめると同じ順で治まるそうです。MOHのPETを用いた研究では,前頭葉眼窩上皮質OFCの血流低下が認められ,情緒的側面がかなり関係しているようです。
最後に先生は群発頭痛についても話題を提供されました。群発頭痛は三叉神経自律神経性頭痛(TACS)に分類され,診断基準では一側性で,15分~180分持続するものとされます。また今回診断基準に追加された項目C6には,落ち着きがない或いは興奮性があるという文章が追加され,片頭痛の動けない状態と対照的に,いらいらと動き回りじっとしていられない群発頭痛の特徴が表わされています。群発頭痛のPETを用いた研究では,群発発作のgeneratorは後視床下部(posterior hypothalamus)で赤核RNの近くと報告されているそうです。
広範な内容の中に最新の知識をさりげなくちりばめた講演は,あっという間に1時間が過ぎたという感じで終わり,非常に興味深く聴講させていただきました。

最後に,当会の顧問である札幌医科大学名誉教授の松本博之先生から,今回の頭痛勉強会の内容を締めくくるご挨拶があり,今回の頭痛勉強会を終了いたしまいた。

次回からは会の体裁が少し変わると思いますが,来年春に第16回の北海道頭痛勉強会を一層充実した内容で開催したいと思っておりますので,皆様方のご参加を宜しくお願い致します。
 
戻る
 
 
 
ホームページ作り方