学会イベント 第18回北海道頭痛勉強会後記 更新 : 2010年7月14日
平成22年6月10日に札幌グランドホテルにて,第18回の北海道頭痛勉強会が開催されました。今回は講師の都合で予定を繰り上げ,17:50頃から今回の共催メーカーであるグラクソ・スミスクライン社よりイミグラン自己注射キットの宣伝がありました。値段的に高価ですが,有効性は高く,98%の片頭痛や群発頭痛の患者さんに有効とのことです。確かに重度の片頭痛や群発頭痛の方は,病院まで来るのが大変ですから,自宅ですぐ自己注射により止められるというのはかなりの救いになります。日本頭痛学会ではHPにイミグラン注自己注射キットの使用ガイドラインを掲載しております。

18:10頃より,札幌医科大学神経内科講師の今井富裕先生の座長で,一般演題の講演が開始されました。

一般演題1:左動眼神経に造影効果を認めたTolosa-Hunt症候群の1例
札幌医科大学医学部神経内科学講座 山本大輔先生
山本先生は左動眼神経にMRIで造影効果を認めたTolosa-Hunt症候群(TH)の1例を報告されました。THの原因は特異的肉芽腫であることが多く,診断基準はICHD-Ⅱに準じて行われます。解剖学な説明の後,鑑別診断についてはCCF,サルコイドーシスで外転神経麻痺,感染症,腫瘍などと述べられました。症例は30才代の女性で左眼窩部痛で発症。神経学的に左眼瞼下垂,瞳孔不同(左6mm右3mm),内転・上転・下転制限などが見られました。検査結果は特に問題なく,造影MRIでcubeFLAIR(CE)にて左動眼神経増強像,SPGR(CE)で眼窩内動眼神経の増強像が見られたとのことです。これまでの報告で1/3がMRIで肉芽腫様増強あり,1/3がその他の病変で,後の1/3が異常なしとされています。その他の疾患では1/4が特発性再発性脳神経麻痺であるということです。9割の肉芽が造影MRIで確認されたとのことでした。これまでの報告で顔面神経,動眼神経,外転神経の増強症例が各1例ずつ報告されているそうです。診断基準でいくとほとんどの症例はステロイドに反応し,眼痛は72時間以内に改善しますが,脳神経麻痺が72時間以内に改善したという報告はないそうです。治療は自然軽快もあり得ますが,ステロイドが有効です。しかしステロイド無効例もあり,各種免疫抑制剤などが試されているとのことでした。

一般演題2:月経関連片頭痛のアマージによる予防の経験
脳神経外科・心療内科 北見クリニック 北見公一
日本で販売されているトリプタン製剤の中で一番最近出たナラトリプタン(商品名アマージ)は先発の4品目より効果発現が遅く,使用方法が難しい点はありますが,反面副作用が5品目中最も少なく,また半減期が非常に長いため1回の内服でその日1日の効果が期待できるメリットがあります。海外ではこのメリットを利用して,難治とされる月経関連片頭痛(MRM)の予防に効果をあげています。今回はMRMがなぜ難治化,長期化しやすいのか原因を検討し,海外でのアマージによるMRM予防の主な報告を3つ紹介し,最後に当クリニックで行った僅かな経験を報告しました。月経時に頭痛を伴う20-40才代の女性で,65%が片頭痛と考えられるにも係わらず,それらの女性の8割近くは頭痛は生理痛の一種と考えているというデータが神奈川歯大横浜クリニックの五十嵐先生らの研究で明らかになっています。MRMの女性はそうでない女性に比べ有意にQOLが低下し,不安感も強いことが知られています。月経中のプロスタグランジン,NO,セロトニンなどの代謝変化がMRMを長期化,難治化させています。海外ではアマージ1mg錠を月経3日前から月経3日目まで朝夕内服というプロトコールで半年ないし1年の間MRMを予防し,6~7割で効果が得られたとの報告があります。日本では2.5mg錠しか発売されていないため,当院を訪れたMRMの12名の方に半錠ずつ朝夕で内服して頂いたところ,やはり9人ほどの方が生理時のQOLの改善と片頭痛に対する不安感が取れたという事を話されました。今後日本でも,この様なMRMのアマージによる治療を検討していく必要があると思われます。

特別講演(座長:札幌医科大学名誉教授 松本博之先生)
18:40頃より,開業直後のお忙しい合い間を縫ってお越しいただいた,根来清先生の特別講演が始められました。題名は「頭痛外来の役割と頭痛患者の掘り起こし」ということで,日本の頭痛外来の草分けとも言える,山口大学神経内科頭痛外来の開設者である先生にふさわしい題名と言えます。
講演内容は,「一般住民における頭痛」,「医療機関を受診する患者とは」,「頭痛医療の現況」,「頭痛患者の掘り起こし」,について話されました。まず先生と海外での留学先で親交のあった台湾の先生の著書から,台湾における片頭痛頻度は9.7%でアメリカとほぼ同じ,日本の北里大学で出した8.4%という有病率と近いとされました。それに比較しヨーロッパは比較的多いとのことです。一次性頭痛である緊張型頭痛(TTH)と片頭痛はいずれも慢性化しやすいものですが,それらの慢性頭痛患者で,病院を受診するのは多くは片頭痛であるとのことです。しかし慢性頭痛の患者でも定期受診は3-5%で,70%の症例は受診なしとの統計がでています。どこへ行けばよいのか分からない,医療難民の状態が慢性頭痛患者の受診率を下げているひとつの要因と言えます。
先生は自分のクリニック従業員の7名中6名が片頭痛で,3名が薬物乱用頭痛(MOH)であったと話され,それがどうして分かったかというと,頭痛外来の勉強をしているうちに皆さんが自分たちで気付かれたそうです。頭痛を専門とする医療機関を受診する患者の75-94%が片頭痛とのことです。多いはずのTTHは3-18%しか受診しないそうです。そして頭痛外来には,特に自己治療困難な片頭痛患者,慢性片頭痛,前兆のある片頭痛,変容性片頭痛,薬物乱用頭痛などのこじれた患者が受診すると言われました。また先生は片頭痛がその経過で進行・変容するということを話されました。はじめの頃は発作間歇期は正常ですが,時間が経つにつれ次第に発作が終わっても眠気や過敏さが取れなくなり(prordome),その内背景にTTHが生ずるようになり,最後は慢性片頭痛になるという経過をとるとのデータを示されました。この考えは非常に大事な点を指摘しています。変容性片頭痛は慢性緊張型頭痛と見分けがつかないような病態ですが,臨床像としての慢性連日性頭痛の中に片頭痛の要素を見つけることが大事です。薬物乱用頭痛は一般人で1.5%と言われており,頭痛外来にかかるまでに片頭痛発症後20.4年,薬物乱用頭痛になって10.3年,慢性連日性頭痛となって5.9年程度の期間があるとのことです。これらのこじれた片頭痛は頭痛外来の40-80%を占めるようです。片頭痛はQOL低下が著しく,特に機能的役割,社会的役割,精神衛生,痛みで落ちるそうです。1987年の頭痛医療では,まだ片頭痛は頭痛で受診した患者の4.4%程度といわれ過小評価されていたそうです。70%は片頭痛以外の診断が付いており,特にTTHと誤診することが多かったようです。原因は片頭痛は拍動性・片側性との思い込み,肩こりイコールTTHとの思い込みなどを挙げられました。医療者が片頭痛の支障度を理解できないことも問題で,訴えと見かけにギャップがあり,それほどでないのではと思ってしまうことが問題です。山口県でアンケートをとったところ,一般医が頭痛診療で困ったことは検査や診断が中心で,特に症状の評価が困難,治療が困難,薬剤を多数服用,慣れない,知識不足などだったようです。頭痛専門医療の地道な啓蒙活動が必要で,頭痛外来の意義を訴えていく必要があります。先生は2001年9月から頭痛外来を山口大学で開設され,当初新患が急増し,その後も頭痛患者の受診が頭痛外来開設前よりも多い状態が続いているそうです。ただし他院で頭痛の検査,特にMRIなどの画像検査を受けている患者が多かったとのことでした。頭痛外来では予約制で十分問診をし,行き場の分からない患者の掘り起こし,医療連携のアピールを行って来られました。もともとの病院を変わった理由の74%は治療してほしいということで,検査は求めていないのです。すなわちMRI頭痛外来や脳ドック頭痛外来などは本当の頭痛専門外来とは言えず意味がありません。頭痛診療の道しるべを示してあげる,適切な診断治療や教育,などが頭痛外来の本来の姿であり,慢性頭痛患者掘り起こしのためには地道な啓蒙活動が必要であることを強調されていました。根来先生は4月にねごろ神経内科クリニックを開設されたばかりで,お忙しい合間を縫って札幌までおいでいただき,非常に熱のこもったご講演をいただきましたことを感謝いたします。
最後に共催メーカーであるグラクソ・スミスクライン社から終了の挨拶があり今回の頭痛勉強会を終了いたしました。次回は本年11月頃を予定しております。(文責 北見)
 
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