学会イベント 第19回北海道頭痛勉強会後記 更新 : 平成22年11月5日
 平成22年10月22日札幌グランドホテルにおいて第19回の北海道頭痛勉強会が開催されました。同日はあいにく脳神経関係の研究会が重なり,参加者が少ないのではと危惧されましたが,共催メーカーのアストラゼネカ社の頑張りもあって76名の医療関係者のご参加を頂きました。
18:00過ぎよりアストラゼネカ担当者より製品説明と片頭痛医療の情報が伝えられ,18:20頃より勉強会が開催されました。

講演1「椎骨動脈解離3症例の検討」
旭川赤十字病院 神経内科副部長 黒島研美先生
黒島先生は動脈解離の構造を説明され,3症例の症状と画像診断から椎骨動脈解離の特徴を検討されました。症例1は60代の男性で突発性頭痛,嘔吐,めまいで発症し,初診時は血圧194/104と高く,DWIで延髄梗塞が疑われました。FLAIRでは所見なく,左VA解離を疑いCTAで確定されたとのことです。症例2は40代後半の女性で,30歳より頭痛がありました。急性頭痛で発症し血圧は高く,頭部MRIで出血病変は明らかではありませんでした。経過を見ていましたが頭痛が続き,トリプタンを投与しても効果なし。1週間後髄液検査がキサントクロミーを呈したため,動脈解離を疑い,頭部MRIのVibe imageで解離を確認したそうです。このような症例も画像診断を駆使すると診断がつくと話され,左椎骨動脈の出血性解離性動脈瘤であったことを示されました。症例3は50代後半の男性で,こちらも突発性の後頭部痛と嘔気嘔吐で発症。血圧も高かったとのことです。頭部MRIで脳幹梗塞がみられ,椎骨動脈解離が確認されました。動脈解離の特徴は突発完成型頭痛であり,いずれも後頚部痛から後頭部痛とのことです。虚血発症2例,出血発症1例でした。欧米では頸動脈系が70-80%で40才代がピークとされますが,日本では椎骨脳底動脈系が多いとのことです。若年性の突発性後頭部痛を伴う脳梗塞では,椎骨動脈解離はまず考えるべき疾患とのことでした。

講演2「看護職員における慢性頭痛の有病率と治療内容の現状」
中村記念病院神経内科 仁平敦子先生
仁平先生は看護職員へのアンケート調査により慢性頭痛の有病率と治療内容についての統計結果を報告されました。対象は中村記念南病院の看護職員136名で無記名調査を行ない,ICHD-Ⅱに準じた診断を行いました。アンケート内容は頭痛の有無,頻度,薬物服用の程度,など15問からなります。91.9%の回答率でした。対象は1対6.7で女性が多く,20-40才代が主で,平均36.2歳でした。そのうち頭痛なしが7例6%,頭痛ありが96%でした。頭痛は「いつも」から「しばしば頭痛」が56%。頭痛の性状はズキンズキンがもっとも多く,部位はこめかみが一番多い場所でした。持続時間は30分~4時間が最も多く,随伴症状としては肩こり,嘔気嘔吐,首こりなどが多かったようです。頭痛の重症度は,重症14%,中等症50%,軽症36%で,頻度は毎日が6%,週2回以上が20%などと回数の多い人も見られたようです。誘因は肩こり,睡眠障害,ストレス,月経などが多かったようです。ICHD-Ⅱに当てはめた頭痛診断の結果では,片頭痛が42%,緊張型頭痛がやや少なく41%,MOHが7名だったようです。服薬に関しては毎日が3%,週3-5回が10%などでした。片頭痛は42%で,日本全体の8.4%や竹島らの30台17.6%,40代18.4%に比べても多かったようです。また他の看護職員対象のアンケート調査でも18%程度であり,今回の頻度はかなり多かったと思われます。肩こりは今までの報告で片頭痛の75%に見られており,今回も多く見られました。治療は病院薬が圧倒的で,68%が月2回以上の仕事に支障のある頭痛を持っており予防薬治療の対象と考えられました。また13%が週3回以上服薬でMOHの疑いもあったようです。MOHには中枢性感作が関係するだろうとのことで服薬する側だけでなく処方する側の職員の啓蒙が必要ということでした。

特別講演「片頭痛の病態-Orexinの役割-」
北里大学神経内科准教授 濱田潤一先生
濱田先生はOrexin と片頭痛の関連について,最新の研究結果を分かりやすくご講演下さいました。Orexinの生理機能とその神経系の病態生理への関与がかなり解明されており,睡眠覚醒に占める役割以外にも種々の脳内メカニズムと関係することが分かってきています。片頭痛は神経系の機能異常であり,脳神経と血管の異常(アンバランス)に伴う症候群complexと捉えられます。片頭痛の発症機序として,歴史的には血管説,神経説,三叉神経血管説,神経血管説などが知られています。しかし最近の神経血管説でも引き金となる不明の刺激というものが良く分からないようです。片頭痛の場合,動物実験は難しいので,人のサンプリングで臨床実験を行なうことになります。硬膜血管あるいは脳表,大脳皮質,脳幹神経核,三叉神経系など全てが片頭痛の発症に関係しますが,Generatorが何処に存在するのか,なぜ片側性なのか,などが不明のままです。脳幹の神経核,中心灰白質PAG,青班核LC,大縫線核NRM,上唾液核SSN,三叉神経核TG,延髄腹外側核VLMなどが関連していることが分かっていますが,問題点はなぜ脳血管が拡張するかということで,脳血管の拡張コントロールや,引き起こすメカニズムが不明です。硬膜,脳表血管,三叉神経核あるいは脳幹が関係しているらしいということは分かっていましたが,三叉神経系,Orexin神経系も関係しているようです。三叉神経を切ると拡延性抑制CSDが減少することが分かり,三叉神経自体が大脳にアクティブに働きかけている可能性があります。
OrexinAはアミノ酸33個のペプチドであり,Bは28個です。Gプロテインを広く調べているうちに見つけられた物質です。片頭痛でOrexinAの濃度が低下しており,片頭痛と睡眠が深くかかわっていることは知られています。睡眠覚醒においてはプロスタグランジンやヒスタミン,アデノシンといった物質とともにOrexinが重要な役割を有します。またOrexinは薬物依存性とも関係しています。Orexin神経は脳幹や大脳に広く分布しています。OrexinAは特に前兆のある片頭痛で有意に低下しており,Orexin神経核より脳幹や大脳に神経線維を送っています。OrexinAを脳室内に投与するとごく微量で強い覚醒反応を示しますが,血管内投与では反応しません。つまりOrexinは血液脳関門を通るとされていますが,その機能を発揮する程度には通らないということのようです。CSDはOrexinを投与すると起きにくくなります。Orexinの実際の存在量は非常に少ないので研究はかなり難しいと言えます。OrexinはCSDを抑制しますが,血清TSHやCRFと相関はありません。視床下部のLateral nucleusがOrexin神経核であり,片頭痛の引き金として関係するようです。脳表軟膜血管や硬膜にOrexin受容体があることからも裏付けられます。
また食欲増加物質グレリンはOrexinを促進し,食欲抑制に働くレプチンはOrexinを抑制し ます。これらは片頭痛の治療薬としての応用される可能性があります。治療に関してですが,Orexin拮抗薬は動物の片頭痛発作モデルに対して作用がありません。 しかしOrexinで血管拡張を抑制することは期待でき,事実抑制する研究結果を得ているそうです。またグレリンも同様に血管拡張を抑制します。このことは体重が増えてくると片頭痛の頻度が減るという臨床像と一致します。
濱田先生は最後に新しい話題として,脳梗塞面積はOrexin投与で縮小するという話をされました。また同様にグレリンでもOrexinを介して脳梗塞面積が縮小するという研究結果を得ているそうです。今後の脳梗塞急性期治療に新しい道が開けるかも知れません。最新知見ではありましたが,濱田先生のこなれた話術により非常に理解しやすく,今後のこの分野に興味をもたれた会場の先生方も多かったものと思います。

最後に共催メーカーアストラゼネカよりお礼の挨拶があり,勉強会を終了いたしました。次回は第20回という節目でもあり,色々と企画を考えております。次回もご参加のほど,何卒宜しくお願いいたします。
 
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